2025年12月19日に公表された令和8年度税制改正大綱では、「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置(いわゆる“ミニマム税”)」の見直しが示されました。
一部報道やSNS上では「金融所得課税の増税」という文脈で語られることが多いのですが、結論から言うと、この見直しは株式だけの話ではありません。
その年の所得が大きくなった場合、不動産の譲渡所得でも影響が出る可能性があります。
本記事では、相続専門税理士の視点で「誤解されやすいポイント」と「相続不動産の売却で起こり得る実務上の落とし穴」を整理します。
1. 「所得6億円なら全員増税?」は誤解です
この措置は、所得が一定水準を超えた人に一律で課税を上乗せする仕組みではありません。
基本構造は次のイメージです。
- 通常の計算で算出された所得税(基準となる税額)
- ミニマム基準(一定の算式で計算される“最低負担水準”)
この2つを比べて、ミニマム基準の方が大きい場合に限り、その差額が上乗せされます。
したがって、給与・事業所得中心で通常の所得税負担が十分高い場合、所得が大きくても追加課税が発生しないことがあり得ます。
一方、分離課税(株式譲渡、不動産譲渡、申告不要配当等)が中心で通常税率が相対的に低い場合、ミニマム基準を下回りやすく、追加課税が発生しやすい、というのが制度のポイントです。
2. 今回の見直し(大綱で示された方向性)
大綱では、従来の措置(令和5年度改正で導入)を見直し、主に次の2点を変更する方針が示されています。
- 控除額(特別控除額):3.3億円 → 1.65億円へ引下げ
- 税率:22.5% → **30%**へ引上げ
- 適用時期:2027年分(令和9年分)から(大綱ベース)
※具体的な制度確定は今後の法案・成立内容により決まります。
3. 「相続不動産」が特に注意となる理由:取得費が不明になりやすい
相続不動産の売却で実務上とても多いのが、取得費(購入代金や購入時諸費用)が分からないというケースです。
取得費を立証できない場合、税務上は原則として概算取得費(売却価額の5%)で計算することになります。
この結果、売却価額が大きいほど、売却価額の大半が「譲渡所得(利益)」として扱われやすいという構造になります。
つまり、相続不動産は「売ったら現金が入る」一方で、取得費が不明だと所得(=課税ベース)が想定以上に大きく出やすいのです。
4. 【図解】長期譲渡所得が6億円の場合の“超ざっくり試算”
「どれくらい影響が出るのか?」の感覚をつかむため、ここでは単純化して、長期譲渡所得(不動産)が6億円と仮定した概算イメージを示します(※理解促進のための単純化であり、個別事案の結論ではありません)。
(1) 通常の所得税(国税)の概算
長期譲渡所得(不動産)は、一般に国税15%(+復興特別所得税)で計算されるため、国税部分は概算で
- 6億円 × 約15%(+復興税) = 約9,189万円
(※住民税は別枠、また軽減税率や各種特例の有無で変動します)
(2) 見直し後のミニマム基準(概算)
大綱の方向性(控除1.65億・税率30%)を当てはめると、
- (6億円 − 1.65億円)× 30%
= 4.35億円 × 30%
= 1億3,050万円
(3) 差額=追加課税(概算)
- 1億3,050万円 − 9,189万円 = 約3,861万円
➡️ この単純化した前提では、国税ベースで約3,861万円の“追加課税”が発生し得るというイメージになります。
※繰り返しになりますが、これは「理解のための概算」であり、実際は所得の内訳、控除、他所得との関係、適用時期・条文確定等で結論が変わります。

5. 納税資金繰りに与える影響:「想定した手取りにならない」リスク
相続不動産を売却する背景には、次のような目的が多くあります。
- 相続税の納税資金を確保したい
- 遺産分割(代償金支払等)の原資を作りたい
- 管理負担を減らしたい
ここで問題になるのが、売却代金=自由に使えるお金ではないという点です。
取得費不明→譲渡所得が大きく出る→(通常の譲渡所得課税に加えて)
今回の見直しの影響で追加課税が発生すると、当初見込んでいた手取りが下振れする可能性があります。
「この売却で納税資金は足りるはず」と思っていたのに、後から税負担が増えて資金繰りが崩れる――
このような事態は、相続の場面では特に避けたいところです。
6. まとめ:チェックすべきポイント
今回の見直しを踏まえると、相続不動産の売却では少なくとも次の確認が重要です。
- その年の所得の全体像(株式譲渡・配当等の有無)
- 売却タイミングと資金需要(納税資金・分割資金との関係など)
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